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掲載開始日:2026年10月29日更新日:2026年10月29日

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あたごニュース『木の皮が薬に!~諸塚の豊かな森林が育む「ボクソク」とは~』

県北部に位置する人口約1,200人の小さな村、諸塚村。今、諸塚村が総力をあげて取り組んでいるのが、地域の資源に新たな価値を見出す「新価値創造プロジェクト」です。

今回はその中核を担うプロジェクトの1つ、生薬・漢方の原料となる「ボクソク」の生産について、諸塚村役場産業戦略課新価値創造室長の藤本英博さんにお話を伺いました。

藤本室長

新価値創造室長の藤本英博さん

ボクソクとは

「ボクソク」という言葉に聞き馴染みのない方も多いのではないでしょうか。

ボクソクとは、広葉樹であるクヌギやコナラの樹皮の総称です。

蕁麻疹やニキビなど、皮膚の炎症を改善する漢方薬の原料として用いられています。

諸塚村では、これまでしいたけの原木として活用されてきたクヌギの新しい出口として、この「皮」に着目しました。

ボクソク

ボクソク(クヌギの皮)

生薬メーカーとの連携の背景

プロジェクトのきっかけは、国内漢方薬メーカーによる「原料の産地探求」だったそうです。メーカー側と諸塚村が「ボクソク」というキーワードで結ばれた背景には何があったのでしょうか。藤本室長にお聞きしました。

  • 諸塚村でボクソクの生産が始まったきっかけを教えてください。

きっかけは2年前、漢方薬メーカーが国内で新たな産地を探されていたことです。

一方で、我々諸塚村も「山の悩み」を抱えていました。しいたけ生産者の減少や高齢化に伴い、原木として切り出されずに大径化した(太くなりすぎた)クヌギが山に滞留していたんです。

原木しいたけの栽培では、クヌギの直径が一升瓶程度(約12cm)を超えると、重くて扱いづらくなるため、それ以上に育った大木は、山にあっても使い道が見出しにくい「出口のない資源」となっていました。

大径化したクヌギ

大径化した(太くなりすぎた)クヌギ

  • しいたけには大きすぎるけれど、ボクソクには最適だったということですね!

その通りです。メーカーの担当者からは、「資源量が豊富で、持続的な供給が期待できる」と高い評価をいただきました。諸塚村が国際的な「FSCⓇ森林認証(1)」を取得している点も強みとなり、メーカーとの連携によって品質基準を満たした原料の生産が可能となりました。メーカー側の「国産原料がほしい」というニーズと、村側の「出口のない巨木を活用したい」という想いが一致したんです。

(1)FSCⓇ森林認証とは・・・適切に管理された森林と、責任をもって調達された林産物に対する国際的な認証制度。消費者がFSCⓇ認証製品を選ぶことで、違法伐採や森林破壊を抑制し、持続可能な森林経営を支援することにつながります。諸塚村は2004年(平成16年)に九州で初めてこの認証を取得し、持続可能な森林経営の先駆けとなりました。(FSCⓇ C012945)

本格始動への道のり

成分分析の結果を受け、供給体制を整えるための具体的なステップが始まりました。

  • 最初はどのように生産体制を構築されたのですか。

昨年、関心のある有志14〜15名が集まって勉強会を開き、まずは約100kgの加工を目標にスタートして、メーカーに試験買い取りを行なっていただきました。その際に、「クヌギの木1mあたりでどれくらい採取できるか」「幹回りを考慮した表面積あたりではどうか」など、さまざまな基準をもとにデータを蓄積しました。その試算をもとに目安を立て、昨年度から本格生産の機動部隊となる「ボクソク生産部会」を発足させました。おかげさまで今年は、昨年の10倍となる1トンという大きな生産目標も達成できる見込みです。

製品ができるまで

医薬品の原料となるボクソクの生産において、最も重要視されるのは「徹底した品質管理」。その品質基準は極めて厳格で、「合格」か「不合格」かの二択しか存在しないそうです。「少しでも不備があれば、ロット全体が返品になる」という厳しい世界で行われる具体的な工程を追います。

●不純物を徹底的に取り除く「洗浄とブラッシング」

作業はまず、山から運び出したクヌギの丸太を洗うことから始まります。

高圧洗浄機を用いて表面の苔や不純物を取り除きますが、クヌギの樹皮には深いシワがあり、その奥に微細な汚れが残ります。そのため、高圧洗浄機で落としきれなかった汚れは、ワイヤーブラシを用いて手作業でかき出すことで、丁寧に取り除かれます。

洗浄作業

洗浄作業の様子

●皮剥ぎ・規格化

洗浄を終えた丸太を槌で叩きながらオノやナタで樹皮を剥ぎ取ります。

この作業は手作業で行われますが、クヌギの樹皮は非常に堅いため、剥ぎ取るのは容易ではありません。部会員からも「皮剥ぎがいちばん大変な工程」との声が上がるほどの重労働です。

剥がされた樹皮は、加工や乾燥がしやすいよう、一定のサイズ(短冊状)に切り揃えられます。

皮剥ぎ

剥がされたクヌギの皮

●機械乾燥
乾燥工程では、単に熱を加えるのではなく、初期段階から仕上げまで、温度を段階的に変化させる緻密なスケジュール管理が行われます。最終的に含水率を基準となる適正範囲内に収めることで、カビの発生を防ぎ、長期間の保存に耐えうる高品質な原料が完成します。

諸塚の強み「しいたけインフラ」をフル活用

前述のような厳しい品質管理を実現できる背景には、諸塚村が長年築いてきた「しいたけ文化」が深く関係しているそうです。

  • 生薬原料専用の施設を作るとなると、かなりハードルが高いと思うのですが・・・

そうなんです。しかし諸塚の場合、村内に乾しいたけの生産拠点があり、雨風や湿気を防げる作業場に加え、乾燥機や冷蔵庫といった生産・保管に必要な設備がすでに整っていたんです。これがボクソクの生産にも適していました。

  • 一から投資をせずに、今ある道具をそのまま活用できたのですね!

はい。山で木を切り出し、使い慣れた機械で仕上げる。しいたけ生産のハード機材と、培ってきた技術をそのままボクソクの生産に活かすことができました。

一本の木をまるごと活かしきる!皮と幹それぞれの役割

クヌギから剥ぎ取られた皮はボクソクとして出荷されますが、一方で、皮を剥いだあとに残る幹の部分も無駄にはされません!

幹は、村の地域おこし協力隊が中心となって展開する薪事業に活用されています。クヌギは比重が重く、火持ちが良いという特性があるため、キャンプ用や薪ストーブ用の燃料として非常に人気が高いそうです。

皮は薬に、幹は薪に―。これまで出口を失っていた巨大なクヌギが、余すことなく活用されるこのプロジェクトは、環境負荷の低減と地域経済の活性化を両立させる、まさに「新価値創造」の理想型と言えるでしょう。

林業の裾野を広げ、次世代の担い手へ

林業の担い手不足は全国的な課題であり、東臼杵地域でも喫緊の課題となっています。そんな中で生まれたこのプロジェクトは、これからの林業にどのような希望をもたらすでしょうか。藤本室長にこれからの展望をお聞きしました。

  • 今年初めて本格的な生産を行なってみて、見えてきた課題はありますか?

はい。一つは「作業環境の改善」です。今年は酷暑の6〜7月に作業を行いましたが、生産者への負担も大きく、湿度による品質管理にも非常に気を遣いました。今後は作業時期を検討し、無理のない生産体制を整える必要があります。また、現在は手作業である「皮剥ぎ」の機械化についても検討を始めています。

また、今回の作業では、シルバー人材のみなさんや女性の方にも手伝っていただきました。こうした輪をさらに広げて雇用を生み、「稼げる産業」としての実績を作っていきたいです。

  • これから林業に携わりたいと考えている人や、村の未来を担う若い世代へのメッセージをお願いします!

先代から守り育ててきた森林資源を一緒に守っていくと同時に、新しいアイデアでまた次の世代へとつないでほしいですね。ボクソクが「医療」や「暮らし」といった分野へとつながったように、林業をさまざまな分野と連携させながら、産業としての裾野を広げていきたいと考えています。

ボクソクのプロジェクトもまだ始まったばかりです。試行錯誤の連続ですが、私たちが道筋をしっかりとつけ、林業が魅力的でワクワクする仕事になるよう、一緒に挑戦していきたいです。

編集後記

藤本室長のご厚意で、実際にボクソクを手に取らせていただいたのですが、想像していたよりもずっしりとした重さにとても驚きました!クヌギの皮が、姿を変えて多くの人に役立つ薬になる―。その不思議さと諸塚の森林が持つ計り知れない力を感じた瞬間でした。

「国産原料を確保したい」というメーカーの切実な想いと、「行き場を失った資源を活かしたい」という村の願い。この二つが最高の形で重なり合い、諸塚の山には今、新しい林業の形が芽吹き始めています。

この「ボクソク」のプロジェクトはまだ始まったばかりですが、やがて村の経済と人々の暮らしを支える大きな樹へと育っていくよう、今後も見守っていきたいと思います。

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