答申第42号
1.審議会の結論
平成27年9月2日付けの「児童相談所職員○○○○が起案した○○○○に対する平成○○年○月○日付児童養護施設入所措置承認の申し立ての内容の3ページ『シインフルエンザに毎年罹患するが予防接種を受けたことがない。発熱時は学校を休むが通院せず「汗をかけば治る」と言われて市販薬を飲んでいる。家で頭を冷やすなどの対応は受けたことがない。』と記載するに至った根拠となる文書証拠書類全て」についての開示請求(以下「本件請求」という。)に対して、平成27年9月14日付けで宮崎県知事(以下「実施機関」という。)が行なった保有個人情報不開示決定(以下「本件決定」という。)は、妥当である。
2.異議申立ての内容
- (1)異議申立ての趣旨
異議申立人の異議申立ての趣旨は、本件決定の取消しを求めるというものである。
- (2)異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書で主張している異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
- ア児童相談所が家庭裁判所に対して提出した申立書に記載されている公知の事実であるので、開示による開示請求者以外の個人の権利利益を害することはない。インフルエンザは有史以来周知の流行性の疾患であって、誰しもが罹患しうるものであり、罹患することは「個人の権利利益を害する」ものには該当しない。
- イインフルエンザに罹患していると証明するには医師による検査、診断が必要であり、これらの医療記録(医療カルテ・診断書)は医療機関において発行されるものであり、それらを取り寄せることは可能であることから、これを不開示決定とすることは不当である。
- ウ当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすと認められる」とあるが、存在しないものをあたかも存在するかのように見せ、起案者が虚偽ねつ造を行なったことを、不開示とすることによって隠蔽しようとしているに過ぎない。
3.異議申立てに対する実施機関の説明要旨
実施機関が保有個人情報不開示決定処分理由説明書で説明している本件決定の理由の要旨は、おおむね次のとおりである。
- (1)本件決定の理由
- ア不開示とした理由
- (ア)条例第17条第2号該当性について
- 開示請求に係る保有個人情報は、開示請求者以外の特定の個人(第三者)についての相談援助活動に関する資料であり、当該情報には第三者の氏名のほか、健康状態や心身の状況等の個人情報が含まれる。
- よって、開示請求に係る保有個人情報は、不開示情報として条例第17条第2号に規定する「開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」に該当し、同号ただし書に掲げる情報のいずれにも該当しないと判断し、不開示と決定したものである。
- また、開示請求に係る保有個人情報は、第三者の人格と密接に関係する情報が含まれており、特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除いたとしても、当該情報を開示することにより、第三者の権利利益を害するおそれがあると認められる。
- よって、開示請求に係る保有個人情報は、不開示情報として条例第17条第2号に規定する「開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」に該当し、同号ただし書に掲げる情報のいずれにも該当しないと判断し、不開示と決定したものである。
- (イ)条例第17条第7号ウ該当性について
- 開示請求に係る保有個人情報は、中央児童相談所が行なう児童相談援助業務に関する資料であり、児童及びその家庭に対する調査に関する情報である。
- 相談援助活動は、必要に応じ継続的に調査、診断、評価を繰り返しながら、指導、援助を行なうものであり、当該情報を開示することにより、今後継続して行なう当該児童及びその家庭に対する調査、診断、評価を伴う相談援助活動を適正に行なうことに支障が生ずると認められる。
- また、相談援助活動は、当該児童及びその家庭に対してのみに行われる固有の業務ではなく、当該児童及びその家庭以外の者に対しても反復継続的に展開される業務であり、当該情報を開示することにより、同種の事務の適正な遂行に支障を及ぼすと認められる
- 以上により、開示請求に係る保有個人情報は、不開示情報として条例第17条第7号ウに規定する「指導、選考、診断、相談その他の個人に対する評価又は判断を伴う事務に関し、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすと認められるもの」に該当すると判断し、不開示と決定したものである。
- (2)異議申立人による異議申立ての理由に対する意見
- ア異議申立人は、「これ(インフルエンザに毎年罹患する予防接種を受けたことがない。発熱時は学校を休むが通院せず「汗をかけば治る」と言われて市販薬を飲んでいる。家で頭を冷やすなどの対応は受けたことがない。)は児童相談所が家庭裁判所に対して提出した申立書に記載されている公知の事実である」ことを理由に、「開示請求者以外の個人の権利利益を害することはない」と主張している。
しかしながら、開示請求に係る保有個人情報は「これを記載するに至った根拠となる文書証拠書類全て」であり、本件不開示の決定にあたっては、異議申立人が主張する「これ」が公知の事実であるか否かを考慮すべきものではなく、条例の規定に基づいて決定するものである。
前記(1)ア(ア)に記載のとおり、開示請求に係る保有個人情報は条例第17条第2号に規定する不開示情報に該当するため、本件不開示の決定を行なったものである。
- イ「インフルエンザは有史以来周知の流行性の疾患であって」以下の主張については、異議申立ての理由がない。
4.審議の経過
当審議会は、本件異議申立てについて、以下のように審議を行なった。
平成27年11月17日 |
諮問を受けた。 |
平成27年12月21日 |
審議会の指名する委員による調査を行なった。 |
平成28年1月6日 |
実施機関から本件決定に係る「理由説明書」を受け取った。 |
平成28年1月25日 |
諮問の審議を行なった。 |
- |
「理由説明書」に対する異議申立人からの「意見書」については、審議会の定める期間内に提出がなかった。 |
平成28年3月23日 |
諮問の審議を行なった。 |
5.審議会の判断理由
- (1)児童相談所業務等について
- ア児童相談所について
児童福祉法(昭和22年法律第164号)第2条において、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と規定されており、県は同法第12条第1項に基づき児童相談所を設置し、同条第2項に規定する児童及びその保護者に対する相談援助活動を実施している。
- イ施設入所措置について
県は通告を受けた要保護児童について、里親等への委託又は児童養護施設等への入所措置を採ることとされている(児童福祉法第27条第1項第3号)が、当該措置を行なう場合は、親権を行なう者の同意が必要とされている(同法同条第4項)。
ただし、保護者がその児童を虐待し、著しく監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、親権者の同意を得ることができないときは、家庭裁判所の承認を得て同法第27条第1項第3号の措置を採ることができるとされている(同法第28条第1項)。
今回のケースにおいては、当時の親権者が児童養護施設入所に同意しなかったため、宮崎県中央児童相談所は同法第28条第1項に基づき、宮崎家庭裁判所に対し措置承認申立てを行なったものである。
- ウ児童養護施設入所措置承認の申立書について
宮崎県中央児童相談所が宮崎家庭裁判所に提出した「児童養護施設入所措置承認の申立書(以下「申立書」という。)」には、申立ての趣旨や実情が記載されており、本件請求に係る文言は、養育の状況に係る児童A及びBとの面接及び関係機関からの聴取内容として記載されていたものである。
当該申立書は、児童相談所が実施した児童や保護者、関係機関等との面接及び電話の内容や、児童や家庭に係る評価等が記載された児童相談記録票、心理面接記録、心理判定書、心理判定検査を元に作成されている。
- (2)本件請求について
本件請求は、県が家庭裁判所に提出した「児童養護施設入所措置承認の申立書」に記載されている異議申立人自身に関する記載の根拠となる文書証拠書類について開示を求めたものである。
なお、開示請求権については、条例第15条(開示請求権)の解釈及び運用基準において、「『自己を本人とする保有個人情報』とは、自分がその情報の本人となっている場合の個人情報をいい、当該個人情報の本人と識別され、又は識別されうるものであれば、自己以外のものの情報の中に含まれるものであっても、開示請求の対象となる」とされているため、異議申立人の言動を保有個人情報と判断し、開示請求の対象と認めたものである。
なお、本件請求のあった時点で、異議申立人は児童A及びBの親権者ではないため、法定代理人としてではなく本人として請求したものである。。
- (3)本件対象保有個人情報について
異議申立人が開示を求めているのは、申立書記載内容の根拠となる文書証拠書類であることから、本件異議申立てに係る対象保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)は、申立書を記載する元となった児童相談記録票、心理面接記録、心理判定書、心理判定検査となる。
- (4)審議会における審査方法について
当審議会は、本件を審査するに当たり、本件対象保有個人情報が特に慎重な取扱いが求められる内容であることから、条例第48条の4の規定に基づき、審議会が指名する委員による閲覧・調査を行なった。
- (5)条例の規定について
- ア条例第17条第2号(開示請求者以外の個人に関する情報)
条例第17条第2号本文は、「開示請求者以外の個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」を不開示情報として規定している。
また、同号ただし書では、「ア法令等の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報に該当する情報」については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨を規定している。
- イ条例第17条第7号ウ(行政の事務事業に関する情報)
条例第17条第7号本文は、「県の機関・・・が行なう事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、次に掲げるものに該当するもの」を不開示情報として規定している。
「次に掲げるもの」として、「ウ指導、選考、診断、相談その他の個人に対する評価又は判断を伴う事務に関し、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすと認められるもの」と規定している。
- (6)本件決定の妥当性について
本件対象保有個人情報に係る不開示決定の妥当性について検討する。
- ア条例第17条第2号の妥当性について
当審議会の指名する委員が本件対象保有個人情報を見分したところ、当該情報には児童及び家庭その他関係者と児童相談所との間で行われた面接及び電話の記録等の情報が記録されていることが認められた。これらの情報は、開示請求者以外の個人に関する情報であり、開示請求者以外の特定の個人を識別することができる情報であることから、本号に該当し、また、本号ただし書のいずれにも該当しない。また、誰の、どの記録に記載された内容であるかを示すことにより、発言者が識別され、当該第三者に不利益を及ぼす可能性が否定できないため、部分開示とすることも困難であるといえる。
また、異議申立人は、家庭裁判所において当該資料の閲覧が認められた公知の事実であると主張しているが、条例に基づく開示の可否は条例に従って判断すべきであって、審判の公正を確保する見地から認められている家事裁判の閲覧制度が、条例に基づく開示とは趣旨が異なる以上、当然開示すべきこととはならない。
したがって、当該情報は、条例第17条第2号に規定する不開示情報に該当すると認められるので、不開示としたことは妥当である。
- イ条例第17条第7号ウの妥当性につい
児童相談所が行なう相談援助活動は、その対象となる児童はもとより、その家庭に関する情報が主な内容である。また、児童と保護者との利益が相反する場合が多く、本件も児童相談所によって虐待の認定がなされていることから、その例外とはいえないと考えられる。そのため、本件保有個人情報に記録された内容を開示することは、今後児童相談所が児童や関係者から状況等を聴取しようとした場合に、児童等が安心して相談できなくなることは明らかであり、児童相談所が情報を得ることが困難になるなど、開示することは今後の相談援助活動の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる。
したがって、当該情報は、条例第17条第7号ウに規定する不開示情報に該当すると認められるので、不開示としたことは妥当である。
- ウその他
異議申立人は、インフルエンザ罹患に係る医療記録を不開示決定とすることは不当としているが、医療記録の有無や内容については第三者に係る情報であるため、開示請求権は認められない。
以上のことから、「1.審議会の結論」のとおり判断する。