答申第43号
1.審議会の結論
平成27年7月10日付けの「平成○○年○月○日以降における請求者の実子である○○中学校○○○○に係る全ての相談の記録」についての訂正請求(以下「本件請求」という。)に対して、平成27年8月10日付けで宮崎県教育委員会(以下「実施機関」という。)が行なった保有個人情報不訂正決定(以下「本件決定」という。)は、妥当である。
2.異議申立ての内容
- (1)異議申立ての趣旨
異議申立人の異議申立ての趣旨は、本件決定の取消しを求めるというものである。
- (2)異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書で主張している異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
- ア本件については、延岡市教育委員会に聞き取りをした結果、不訂正決定にしたとのことだが、延岡市教育委員会は○○中学校に対し、きちんとした調査をしていない。中立的立場で調査を行わず、一方に荷担するこのような調査は不公平であり不信感を募らせる。
- イ教育委員会に、公平な調査と不訂正決定の取消しを強く求める。
3.異議申立てに対する実施機関の説明要旨
実施機関が保有個人情報不訂正決定処分理由説明書で説明している本件決定の理由の要旨は、おおむね次のとおりである。
- (1)本件決定の理由
- ア不訂正とした理由
開示した保有個人情報については、文書保有部署が電話で異議申立人が発言した内容について概略を記録として残したもので、現状でも記録として支障はなく、異議申立人の電話での発言と記録の内容の正誤を確認できない上、県教育委員会は延岡市立○○中学校への直接の指導監督権を有するものではないことから、宮崎県個人情報保護条例第31条に規定する利用目的が達成できないとは言えない。
- (2)異議申立人による異議申立ての理由に対する意見
- ア異議申立人は「異議申立てに係る処分を取り消し、きちんと調査した上で、対象文書を訂正するよう」求めている。
しかしながら、(1)アのとおり、当該訂正請求に理由があるとは認められない。
- イ「延岡市教育委員会が○○中学校に対し、きちんとした調査をしていない」としていることについては、県教育委員会が相談を受けた際には、必ず市教育委員会に情報提供し、管下の中学校に対して事実確認をするとともに、必要に応じて指導・助言をするよう依頼してきた。
- ウその他の主張については、異議申立てとは関係がない。
4.審議の経過
当審議会は、本件異議申立てについて、以下のように審議を行なった。
平成27年11月9日 |
諮問を受けた。 |
平成27年12月1日 |
実施機関から本件決定に係る「理由説明書」を受け取った。 |
- |
「理由説明書」に対する異議申立人からの「意見書」は提出なし。 |
平成28年1月25日 |
諮問の審議を行なった。 |
平成28年3月23日 |
諮問の審議を行なった。 |
5.審議会の判断理由
- (1)本件対象保有個人情報について
- ア教育相談については、電話や面談により相談を受けた担当者が、内部報告のため、相談者とやりとりした相談内容や対応等の要点を、担当者の記憶やメモをもとに教育相談報告書を作成している。当該報告書は、相談日時、相談形態、相談者氏名、相談の概要、対応等を記載し、継続案件の対応時に以前の報告書を参考にする等して活用することで、相談に係る問題の解決に資することとしている。
- イ本件対象保有個人情報は、実施機関が異議申立人からの教育相談に対応するため、平成○○年○月○日から平成○○年○月○日までに作成した教育相談報告書であり、平成27年6月18日付け0250-1402による全部開示決定により開示した、本人に係る保有個人情報である。
- ウ本件対象保有個人情報は、電話による相談の記録であり、発言内容に関し録音データ等の客観的な資料は存在しない。
- (2)本件決定の妥当性について
異議申立人が主張する本件請求は、記録された内容が事実と異なるとして、当該内容の訂正・削除を求めるものであるが、実施機関は記録している内容の正誤を確認することができなかったこと、個人情報の利用目的が達成できないとはいえないことを理由に不訂正としているので、その決定の妥当性について検討する。
- ア個人情報の訂正の趣旨
- (ア)宮崎県個人情報保護条例(平成14年宮崎県条例第41号。以下「条例」という。)第29条第1項では、「何人も、自己を本人とする個人情報・・・の内容が事実でないと思料するときは・・・当該個人情報を保有する実施機関に対し、当該個人情報の訂正(追加又は削除を含む。)を請求することができる。」と規定し、同第31条では、「実施機関は・・・当該訂正請求に理由があると認めるときは、当該訂正請求に係る個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、当該個人情報の訂正をしなければならない。」と規定している。
- (イ)条例第29条第1項の訂正請求権は、実施機関が保有する個人情報に事実の誤りがあり、誤った情報がそのまま放置されると、誤った情報をもとにして行政処分その他の行政行為等が行われ、個人の権利利益が侵害されるおそれがあるため、こうした権利利益の侵害を防ぐことを目的とした規定である。
なお、「内容が事実でない」とは、氏名、住所、性別、生年月日、年齢、学歴、家族構成等の客観的な正誤の判定に馴染む事項に誤りがあることをいい、個人に対する評価、判断等の客観的な正誤の判定に馴染まない事項については、訂正請求の対象とはならないと解される。
- (ウ)また、条例第31条でいう「当該訂正請求に理由がある」とは、訂正請求に係る個人情報に事実の誤りがあることをいい、「利用目的の達成に必要な範囲内で」とは、個人情報の訂正は、個人情報の利用目的に応じて、その必要な範囲内で行えば足りることと解される。
- イ判断
- (ア)本件対象保有個人情報は、実施機関の担当者が、相談者とやりとりした内容を要約した報告書であって、相談者の発言内容等を一言一句記録する性質のものではないと認められる。また、教育に関する相談に応じるという業務の性質上、相談者から出た言葉を正確に記録することに主眼があるのではなく、相談に係る問題の解決に資するという観点から作成されているものと考えられる。
- (イ)個人情報の訂正については、条例第31条において「利用目的の達成に必要な範囲内」とされているところ、本件保有個人情報の利用目的は「保護者等からの相談に応じ、相談に係る問題の解決に資する」ことである。実施機関は、利用目的を達成するために、中学校と保護者との間でトラブルが生じているという事実に関し、中学校を所管する市教育委員会へ報告を行い、事実確認と指導・助言を依頼する等の行政上の措置を行なっているため、利用目的は既に達成していると認められる。また、仮に異議申立人が主張する内容が事実であったとしても、「関係機関へ報告を行い、事実確認と指導・助言を依頼する」という対応方針に変更はなく、当該記載自体による個人の権利利益の侵害があるとは認められないため、条例第29条第1項の規定による訂正請求については、認められないと判断する。
- (ウ)また、本件については、実施機関が利用目的の範囲を超えて、事実に反する記載をしたと認められる特段の事情は考えられず、また、当審議会において異議申立人の訂正請求書や異議申立書を見分したところ、本件対象個人情報に記載された内容が事実ではないことを証明できるものとは認められなかった
- (エ)異議申立人は、記録内容を訂正すべき理由を自身の見解をもって主張しているが、事実関係を証明できる証拠書類の提出がなく、客観的資料がない以上、訂正に応じないという実施機関の説明は、これを受け入れざるを得ない。
- ウしたがって、当該記載内容が事実ではないと認められないので、当該訂正請求に理由があるとは認められない。
- (3)その他
異議申立人は、延岡市教育委員会の行なった調査内容等について異議を申し立てているが、調査内容等については当審議会の関与するところではない。
以上のことから、「1.審議会の結論」のとおり判断する。